あのころ③彼とのなれそめ

 最初に話かけたのは、多分私の方だったと思う。 

 「そのカレーパンどこで買ったん?」と私?

 「F男が買ったのもらった。食う?」すでに食べ始めたカレーパンを
私の方に差し出し、彼は聞いた。

 1週間は続いた新入社員研修の3日めの昼食後だったと思う。
昼食に研修期間中は、会社が仕出し弁当を用意してくれていた。
「喜多町」という名の弁当屋のそれは
2段重ねで上に油っこい揚げ物。
下にお茶碗軽く2膳はあるくらいご飯がつめられていた。
その量の多さに残す女子社員は多かった。
 
 私はもちろん全部たいらげた。出されたものは全部食べる。
そうしつけられた覚えはないが、今もそれが当然の私だ。
 幼稚園ママ達でランチにいっても、たいして多くない
ファミレスのご飯を残すママをみると、
「あんた、何で食べないの?!こんなに残したら、だした人に申し訳ないよ。
 だめそうなら、最初から超小盛りでお願いします。と注文するとき
 いいなよ!」
 と、そのママをしかりつけたくなる。もちろんその言葉は胸にしまいこみ
 言わない。今後の幼稚園生活に支障をきたすような争い事は
 極力さけねばならない。でも、心のなかでは最近のママは!!と
 又毒づきながら、
「小食だね~。だからスリムなんだー」と笑顔と
 やや羨望のまなざしを その飯お残しママに送る。

 かように女性にしては、よく食べる方の私だがそんな私をも
参りましたと、思わせたのが彼である。
 彼は会社でだした喜多町の超大盛り弁当を自分の分は、
とっくにたいらげ、さらに「もう食えねーよー。」とギブアップした
都会ぼっちゃん育ちの同僚のお残しご飯を頂く。
それでも足りずブラックホールのような胃袋に
「鎮まりたまえ~。」と、仕上げのカレーパンを納めている最中に
私に話しかけられたのである。

 私とてカレーパンがその時食べたくて、彼に何処で売ってるかを
聞いたわけではない。研修後は喜多町の弁当は自費になるため
より安い市販の弁当情報が知りたかったのがまず一つ。
あんなに大盛りの弁当を食べた後、まだ食うか!?と言う
素朴な疑問。
 そして、内定者説明会のとき。その後内定者パーテイーの
鶏の丸焼きの一件(詳しくはあのころ①②参照)と。
2度にわたり私の注意を引いたにも関わらず、
まだしゃべったことがないこの人。  
 一体どんな人なのか?という好奇心が彼に話かけさせた。
 
 大喰らいだけど、欲のない彼。カレーパンは食いかけだけど
私にくれるという。
 彼は今でも、子供達にまず食べさせ自分は後でいーよーと言う。
焼肉屋サンにいっても肉奉行に徹する。野性動物のように自然の
摂理にかない親として当然のふるまいをする。

 人はいつから親になるのか?子を産めば母親はわりとすぐ
母性なるもののせいで、母親っぽくなっていくが、
男はいつ父親になるのだろう?

 かくいう私は母乳育児を完結させ、子供を見れば頬ずりを
欠かさず、自分の性格に反し自分の子にはあれこれ世話焼きをするが
この「焼肉屋サン」に行って、カルビが片面いい色で焼き色をつけてきた時点で
母性はふっとぶ。
 「あの肉は、私が絶対食べるのだ。」とねらいを定める。
 野性のチーターが獲物に狙いを定め、
全力疾走前の「伏せの姿勢」に入ってる状態である。
獲物獲得率ほぼ100パーセント。

 「そんなお母さんいないよ。」実母によく言われる。

 「そんなお母さんいないよ。」夫(=この文章中の彼)にあきれられる。


                                   つづく






"あのころ③彼とのなれそめ" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント